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……なあ、先生。昔からファーガスでは、
遺産と、紋章の有無が重要視されてきた。
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マイクランのように、紋章を持たないために
家督を継承できなかった者も珍しくはない。
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俺の伯父もそうだ。王の長子でありながら、
王位の継承権を得ることはできなかった。
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王家を含めて、十傑の紋章を継ぐ家は
どこも同じようなものだが……
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中でもゴーティエ家は、家督の継承に際して
特に紋章の有無を重視する。
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彼らにとっては、
紋章の力が「必要なもの」だからだ。
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王国の最北に領土を持つゴーティエ家は、
長きにわたり北方の民と戦ってきた。
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その当主には、紋章の……そして遺産の力で
強大な外敵から領民を守る責務がある。
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それが本来、特権と引き替えに
王国貴族が担ってきた役割だ。
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ある意味ではな。とはいえ、能力の優劣は
紋章の有無だけで測れるものじゃない。
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そのとおりだな。俺も、そう思っている。
能力の優劣は、紋章の有無では測れない。
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紋章がないからとマイクランを廃嫡した
ゴーティエ辺境伯は、間違っていると思う。
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……だが、長く続く慣習には、
それだけの理由があるものだ。
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仮にこの世の誰もが紋章を
軽んじるようになれば、どうなると思う。
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紋章を継ぐ血はすぐに淘汰され、脅威に
抗うための刃も錆びついてしまうだろう。
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……長年繰り返されてきた議論だ。
誰もが正しく、誰もが間違っている。
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……紋章を持つ者も持たない者も、
互いの力を認め、尊重し合うだけでいい。
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紋章だけじゃない。血筋も、民族も、信仰も
主義や思想でさえも、同じことが言える。
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一歩ずつ譲り合い、認め合うだけでいい。
……それができるなら、の話だがな。
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どうしても認められない「何か」を、誰もが
持っている。俺も……きっと、先生も。
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何かを切り捨てることと、受け入れること。
どちらが簡単なんだろうな、先生……。