link
ギルベルト
volume_up
ベレト殿、ここにいたのですか。
殿下が捜しておられました。
link
ギルベルト
volume_up
件の捕虜……クレイマン子爵麾下の者の
尋問に、先に取り掛かっておられます。
link
ギルベルト
volume_up
私とあなたにも立ち会ってほしいと
仰っていたのですが……
link
ディミトリ
volume_up
……その妄言は看過できない。
それほど首を刎ね飛ばされたいか?
link
捕虜
volume_up
……私は己の正義に従ったまで。
女神に誓って、嘘はございません。
link
捕虜
volume_up
とにかく……あの惨劇の渦中にあっても、
パトリシア様だけはご無事だったはずです。
link
捕虜
volume_up
あの方が乗られていた馬車には近づくなと、
あらかじめ指示されておりましたから……
link
ディミトリ
volume_up
……そんなことがあってたまるか。
何の得があって、継母上がそのような……
link
ギルベルト
volume_up
パトリシア様は、何としてでも帝国に……
夫と娘の元に、戻りたかったのでしょう。
link
ギルベルト
volume_up
この数節、帝国に寝返った諸侯を探り、
パトリシア様について調べておりました。
link
ギルベルト
volume_up
コルネリアの言葉は正しかった。
……やはり二人は、結託していたのです。
link
ディミトリ
volume_up
馬鹿も休み休み言え。……帰りたかった?
それだけの理由で、あんな惨劇を……
link
ギルベルト
volume_up
無論、あの二人がすべてを仕組んだなどと
申し上げるつもりはございません。
link
ギルベルト
volume_up
恐らく裏には、王政に反感を持つ貴族や、
王国の混乱を狙う何者か……
link
ギルベルト
volume_up
帝国……そしてソロンやクロニエのような
者たちの思惑があったのでしょう。
link
ディミトリ
volume_up
……継母上が彼らと手を結び、
あの事件を起こした……そう言いたいのか。
link
ギルベルト
volume_up
これはあくまで、状況証拠からの推察です。
あの方の真意までは、私には……。
link
ディミトリ
volume_up
………………。
……今は、この男の話を聞くのが先だ。
link
捕虜
volume_up
我が主は、急進的なランベール王のやり方に
かねてより危機感を抱いていました。
link
捕虜
volume_up
そんな折、何者かからダスカーの件に
加担するよう持ち掛けられ……
link
捕虜
volume_up
私にとって、国を憂う主こそが正義だった。
我々は、己の正義に従ったまでです。
link
ディミトリ
volume_up
王を弑逆し、兵を殺し、罪のない民衆を
巻き添えにしてまで、正義を語るのか。
link
捕虜
volume_up
……その罪深さに耐えられなかったからこそ
私はこうしてここに立っているのです。
link
捕虜
volume_up
……私は、そう信じております。
link
捕虜
volume_up
いいえ。恨まれ、殺されるのも、本望です。
あれは……正義のための虐殺だった。
link
ディミトリ
volume_up
………………。
ギルベルト。この男を牢に繋いでおけ。
link
ディミトリ
volume_up
……それを決めるのは、この男の言う
正義とやらについて考えてからだ。
link
ディミトリ
volume_up
なあ……先生は、父親の……ジェラルト殿の
ことを、どれだけ覚えている?
link
ディミトリ
volume_up
……そうだよな。いなくなった者の姿は、
残された者の記憶から少しずつ消えていく。
link
ディミトリ
volume_up
ならば、きっとすぐにわかる。いなくなった
者の姿を忘れていくことの恐ろしさが……。
link
ディミトリ
volume_up
……正直、もう俺はよく思い出せない。
継母の……いや、あの人の、笑顔や声を。
link
ディミトリ
volume_up
忘れてはならないと思っていたのに……
思い出せるのは、寂しそうな顔だけだ。
link
ディミトリ
volume_up
継母上は、父上や俺を……偽りの家族を
殺してまで、帰りたかったのだろうか。
link
ディミトリ
volume_up
……まあ、先生に聞いたところで、
そんなことはわからないよな。
link
ディミトリ
volume_up
だが、もう……いいんだ。
憎悪に縋らなくても、俺は生きてゆける。
link
ディミトリ
volume_up
死んでいった者たちを、本当に大切に
思うなら、真摯に償わねばならない。
link
ディミトリ
volume_up
父上やグレン、死んでいった兵士たち。
迫害を受けて苦しむダスカーの人々……
link
ディミトリ
volume_up
彼らのために、今の俺ができる贖罪は……
託された王国を背負うこと、それだけだ。
link
ディミトリ
volume_up
……ああ。だからこそ俺は、
エーデルガルトと会って話をしようと思う。
link
ディミトリ
volume_up
突拍子もない話だと思うか?
……正直なところ、俺もそう思う。だが……
link
ディミトリ
volume_up
俺は情も怨恨も、すべての過去を呑み込んで
彼女の描く未来について問わねばならない。
link
ディミトリ
volume_up
彼女が覇業の果てに何を目指しているのか。
どんな正義を抱いて戦っているのか。
link
ディミトリ
volume_up
……そして、なぜ戦争などという
手段を取らねばならなかったのか。
link
ディミトリ
volume_up
今は……一国の王としてそれを問うのが、
俺に課せられた本当の責務だと思っている。
link
ディミトリ
volume_up
……俺たちはこれから、
帝都アンヴァルへと軍を進めることになる。
link
ディミトリ
volume_up
だが交戦する前に、いったん帝都から
離れたところに陣を構え、使者を出そう。
link
ディミトリ
volume_up
互いに安全な場所で、武器を持たず、
兵も連れず、話がしたい……そう伝える。
link
ディミトリ
volume_up
その申し出に応じてくれるかどうかは、
まあ……エーデルガルト次第だな。
link
ディミトリ
volume_up
なあ……先生。フェルディアで戦った時、
コルネリアは、俺を可哀想だ、と嘲笑った。
link
ディミトリ
volume_up
だが、継母に愛されていなかったとしても
俺は自分を哀れだとは思わない。
link
ディミトリ
volume_up
今は、仲間や、友人や……
お前が、側にいてくれるのだから。