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ギルベルト
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……アロイス殿、あなたも釣りに？
お邪魔でしたら、私は引き揚げましょうか。
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アロイス
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いやいや、私はただ通りがかっただけだ。
そのまま続けてくれ。
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アロイス
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おや？ 今日は不調なのか、ギルベルト殿。
まだ１匹も釣れていないとは……。
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ギルベルト
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今日は、魚を釣るために、
釣りをしているわけではありませんので。
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アロイス
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他に目的でもあると？
釣り上げる瞬間に勝る興奮はなかろうに。
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アロイス
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はっ、もしや何か人には言えぬ事情でも……
私で役に立つならば協力するが？
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ギルベルト
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……お気持ちだけ、
ありがたく受け取っておきます。
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ギルベルト
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私は……自らの過去と向き合うために
こうして釣り糸を垂らしているのです。
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ギルベルト
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釣りをしている間は、周囲を気にせず
自分の内面と向き合えますから。
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ギルベルト
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アロイス殿のように、釣りを楽しむのが
釣り人としての正しい在り方なのでしょう。
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ギルベルト
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……あなたの望むような
釣り仲間になれず、申し訳ありません。
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アロイス
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ああ、いや、いいのだ……
私も思い出したぞ、ギルベルト殿。
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アロイス
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最初、私に釣りを教えてくれたのは、
ジェラルト殿だった。
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アロイス
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遠征先で、時間を持て余していた私に、
暇潰しにはもってこいだ、と言ってなあ。
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アロイス
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思い返してみればジェラルト殿も、いつも
水面を眺めて何か思案しているようだった。
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アロイス
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もしかするとあの方も、釣りをしながら
何かと向き合っていたのかもしれん。
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アロイス
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私や皆に気づかせんようにしながら、
独りで思い悩んでいたのだろうか……。
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ギルベルト
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……故人の考えは、もうわかりません。
だから、我々はこうして思い悩む。
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アロイス
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……よし！ やはり私も、
貴殿と共に釣りをさせてもらおう。
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アロイス
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今日は、魚を釣るためではない釣りを
教えてくれまいか、ギルベルト殿。
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アロイス
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……たまには、水面を眺めながら
団長に思いを馳せたい、そう思ってな。
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ギルベルト
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……ええ、もちろん構いません。
今日は、私の釣り道具をお貸ししましょう。
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