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ドロテア
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ねえ、ユーくん……そろそろ、普通に
接してくれてもいいんじゃないかしら?
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ドロテア
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舞台に引っ張り出したのは悪かったわ。
でも、いまだに根に持ってるなんて。
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ドロテア
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なら、どうして私と顔を合わせるたび、
険しい顔してそっぽを向いてしまうの?
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ユーリス
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いや別に……自分の器の小ささに
自己嫌悪してた、とでも言えばいいか?
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ドロテア
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自己嫌悪!? ……貴方、そんな言葉とは
無縁の人だと思っていたけれど。
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ユーリス
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お前は汚え路地裏から、自分の足で歩いて
歌姫として舞台に上ったってのに……
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ユーリス
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それを席から見ていた俺は、貴族の膝の上で
媚び諂うことでしか成り上がれなかった。
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ユーリス
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今でこそ、この生き方には誇りを持ってるが
初めて舞台の上のお前を見た時は……
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ユーリス
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眩しくて、仕方がなかったんだよ。
お前を見る度に、その時のことを思い出す。
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ユーリス
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あの時ほど、自分の醜さや汚さを
思い知らされた瞬間はなかったね。
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ドロテア
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……それで歌嫌いに?
いえ、他に理由があるんじゃ……
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ユーリス
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ああ。あの頃の帝都には、歌姫ドロテアを
自分のものにしたい貴族が腐るほどいた。
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ユーリス
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どうしても手に入らねえから、
粗悪な代替品で妥協しようって貴族もな。
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ドロテア
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それでも真っ直ぐに歩いてきた貴方が、
醜く汚い存在だというのなら……
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ドロテア
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貴方が見た私は、空虚な紛い物だわ。
本当の私は、好きなものさえ奪われて……。
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ドロテア
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私ね、子供の頃、歌うことが好きだったの。
どれだけ苦しくても、歌にすがってきた。
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ドロテア
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マヌエラ先輩と出会って、歌劇団の一員に
なったのは、きっと幸運だったんでしょう。
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ドロテア
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でも、その代わりに……私は、自分が歌を
好きかどうかもわからなくなっちゃった。
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ユーリス
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わかんねえ奴だなあ……
したたかなんだか、無駄に繊細なんだか……
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ユーリス
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お前が歌を好きかどうかは知らねえけど、
とても嫌ってるようには見えなかったがな。
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ユーリス
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俺を歌姫に仕立て上げると張り切るお前は、
いつもよりずっと楽しそうに笑ってたぜ。
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ドロテア
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……ふふ、そうかもしれないわね。確かに
あの時は、純粋に楽しかった気もするわ。
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ユーリス
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お前は、迷子になってるだけだろ。
俺の歌嫌いも似たようなもんだ、わかるよ。
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ユーリス
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なあ、例えばもう一遍、今度は貴族なんぞを
相手にしねえ歌劇団にでも入ってみれば……
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ドロテア
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! ……それ、いいわねえ!
私と貴方で、新しい歌劇団を立ち上げるの。
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ドロテア
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世の中には、私や貴方のように、
迷子になったままの人がたくさんいるわ。
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ドロテア
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そういう人たちをどんどん引き込んで、
フォドラ一の歌劇団を目指せたら……
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ドロテア
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なーんて、柄にもなく夢を見ちゃった。
もちろん戦争が終わったらの話だけれどね。
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ユーリス
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……ははっ、なかなか面白そうじゃねえか!
きっといい商売になるぜ、それ。
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ドロテア
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ふふっ、貴方って、本当に現実的ねえ。
根っこは理想家のくせに。
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ユーリス
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どの口が言うんだって話だ。……まあ俺も、
お前のそういうしたたかさは嫌いじゃねえ。
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ドロテア
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ふふっ……それを言うなら私も、
貴方のそういうところ、好きよ。
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ドロテア
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そんな貴方だからこそ、一緒に夢を
見てもいいって思えるんだもの。